サイエンスの世界に限らないかもしれませんが、仕事をする上で多くの味方を持つというのは非常に重要です。味方を作る能力というのは、結果に直結します。
味方は研究計画段階から実験、論文やプロポーザルの執筆などほぼ全ての研究活動において大きな助けになってくれます。
味方を多く持つというのはそれだけで有利ですが、それには日ごろから人の手助けをするというのが近道だと感じます。そして他人を信じて頼ることが大切です。
同じグループの二人のポスドクを見ていると、研究スタイルが本当に対照的で面白いです。一人はアメリカ人の男性で、もうひとりはフィンランド人の女性です。二人とも30代半ば、プロジェクトも多少の違いがあるものの大筋で似ています。
その男性のポスドクは、何でも一人でやらないと気がすまないというタイプの研究者です。実験スキルは非常に高く、質の高いデータを出します。しかし他人に頼ることはほぼ皆無で、他人に積極的に力を貸すこともありません。一匹狼型と言えるでしょう。
もう一方の女性ポスドクは、他人に頼るのが非常にうまいです。実験スキルは見ている限りそこまで高いとは思いませんが、自分にできることとできないことをよくわかっていると感じます。自分の不得意分野はとにかく他人に頼りまくります。その代わり彼女は人にも積極的に力を貸し、例えば同僚の申請書や論文の添削などを日常的に行っています。他の同僚とのギブアンドテイクの関係をとてもよく築いていると感じます。
研究スタイルはその研究者の個性を大いに反映するので、色々なスタイルがあって当然で、またどのスタイルがベストかはわかりません。
ただし研究者は新しいことを発見して報告することが仕事ですので、当然論文の質と数で評価されます。
面白いことに、その他人に頼るのがうまいフィンランド人ポスドクは、周りに頼らないアメリカ人ポスドクの3倍近い数の論文を持っています。研究歴がほぼ同じにも関わらずです。hインデックスも3倍ほど違います。
彼らを見ていると、他人と助け合う関係を築くのが重要だと思い知らされます。
あるとき、ラボのテクニシャンが休暇で1週間ほどラボを空けることがあり、その間のラボのガラス器具の洗浄を何人かのポスドクにお願いして回っていました。1日10分ほどを数日間の作業量です。フィンランド人ポスドクは二つ返事で快諾したのに対し、アメリカ人ポスドクは「俺は物理学のPhDであって、皿洗いのPhDではない」と言い放ち、洗浄を手伝うことはありませんでした。彼の言い分もよくわかりますが、1日10分数日間の仕事を拒否することで、同僚とよい信頼関係を築くチャンスを逃すのはもったいないと思います。
他人を助けると、他人からも助けてもらえます。そうして助け合い、味方を増やしてきたんだなあと、そのフィンランド人ポスドクを見て思いました。それで結果にも直結しているのだから、素晴らしいと思います。
彼らを見てというわけではありませんが、私も同僚を積極的に助けるようにしていて、その手伝いに多くの時間を割くこともあります。しかし自分が困ったとき、同僚を頼れば必ず力になってくれます。
高い実験技術をもつことはもちろん大事ですが、如何に普段から味方を作る努力をしているか、それも非常に大切だと考えさせられます。